神経障害の薬をHD患者に転用の可能性

製薬会社ノバルティスは、SMA患者の治療薬ブラナプラムを開発するなかで、これがHD患者にも有望であるかもしれないことを発見しました。FDAはこれをオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に指定しました。

執筆:レイチェル・ハーディング博士 2020年10月22日 編集:レオラ・フォックス博士

製薬会社ノバルティスは、SMA患者の治療薬ブラナプラムを開発するなかで、これがHD患者にも有望であるかもしれないことを発見しました。FDAはブラナプラムをオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に指定しました。

ハンチンチン低下に既存薬?

製薬会社ノバルティスは、FDA(食品医薬品局)がブラナプラムをHD治療薬としてオーファンドラッグに指定したと発表しました。

ブラナプラムはもともと、脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬として開発され、現在もその用途で臨床試験中です。ブラナプラムは細胞内において、遺伝子情報からタンパク質が生産されるプロセスを調節することにより、SMN(*)というタンパク質の量を増やすとされています。SMA患者の多くはこのタンパク質の量が他の人に比べて少なく、そのことがこの疾患の根本原因であるため、SMNの量を増加させることはSMA患者にとって有用な治療効果をもたらすと考えられています。

(*) HDBuzzの原文(英文)ではSMN2タンパクとありますが、正しくはSMNです。ブラナプラムは「SMN2遺伝子」に作用し、「SMNタンパク」の量を増やす、と言われています。SMAに関する参考情報はこちら


興味深いことに、ブラナプラムはハンチンチン遺伝子情報からのタンパク質生産プロセスも調節し、ハンチンチンタンパク質の量を低下させる効果もあるようなのです。これは、多くの研究者や製薬会社がHDの治療法として有望と考えている「ハンチンチン低下薬」の目指す効果そのものなのです。

現在臨床試験中のハンチンチン低下薬は、髄腔内投与(髄注)や脳外科手術をして投与する必要があります。それらとは異なり、ブラナプラムは低分子薬であるため、錠剤で経口投与が可能です。したがって、もしノバルティス社によってブラナプラムがHDに有効であることが確認されれば、HD患者にとって利便性が高い選択肢、すなわち経口薬として提供されることになります!

オーファンドラッグ指定 その次は?

FDAがオーファンドラッグ指定を決定するのは、通常、HDのような希少疾患の治療薬開発が進行中の場合です。オーファンドラッグに指定することで、その薬を開発している企業(この場合はノバルティス社)には優遇・奨励措置が与えられることから、患者数の少ない疾患のための新薬開発を促進することになります。

HD患者の治療にブラナプラムを使うことについては、研究者にとって未解明な点がたくさんあります。ブラナプラムのような経口薬は、脳だけではなく全身に作用すると考えられます。全身隈なくハンチンチン低下させた場合にどのような影響があるのか、十分には明らかにされていません。またブラナプラムは、既に明らかになっているSMNやハンチンチンだけでなく、他のタンパク質の量も変動させてしまうかもしれません。したがって、いわゆる薬の「作用機序」が完全に解明されることがない限り、ブラナプラム治療によってHD症状がどう改善するかを正確に予測するのは複雑で困難になりそうです。一方、幸いなことにこの薬は、少数のSMA患者を対象とした試験では安全であることが既に確認されています。

ノバルティス社は現在、HD患者を対象にした第2相臨床試験を計画中で、2021年開始の予定です。すぐにでも最新情報を提供したいと思っています!

レイチェル・ハーディング博士に明らかにすべき利益相反はありません。レオラ・フォックス博士は米国ハンチントン病協会(HDSA)に所属しています。HDSAは当記事で言及されているノバルティスと情報交換し、非開示契約を結んでいます。当サイトのディスクロージャーポリシーについて詳しくはFAQ  をご覧ください。