HD(ハンチントン病)の遺伝カウンセリングを担当している全国の認定遺伝カウンセラー、臨床遺伝専門医からメッセージをお寄せ頂きました。HDについての認定遺伝カウンセラーのメッセージから読み取れることは、遺伝性という言葉に抱く不安、悩み、家族とのことなどについて耳を傾け、整理し、また遺伝性に関する正しき知識や最新の医療などの情報を示すことで、クライアントにとって最良な選択ができることをお手伝いすることに誠実にかつ真摯に向き合っているということではないでしょうか。
難解で専門的な遺伝性疾患について、幅広い視点からクライアントの問い、質問に答えることで不安やおそれを取り除いてくれる存在であると思います。
投稿していただいたメッセージには重複している箇所がありますが、そのまま掲載いたします。内容について、ご質問、疑問などあればJHDNまでお問い合わせしてくださるようにお願いします。遺伝カウンセリングでは患者さんや家族などの当事者は「クライアント」と呼んでいます。
メッセージ1 遺伝カウンセリングと聞くとどのようなイメージがあるでしょうか?
・HDについて説明してほしい、周りに話せる人がおらず誰かと話がしたい、
・検査を受けたい、家族にどのように伝えたらよいのか悩んでいる、など、
遺伝カウンセリングで話をする内容は、来院するクライエントさんの数だけ異なります。遺伝学的検査や遺伝の話をすることもあれば、ご家族での情報共有の場として利用する方、自分の気持ちを整理する時間として利用する方もいらっしゃいます。
今メッセージを読んでいる方のなかにも、不安や表現できない思いを持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。遺伝カウンセリングが、前に進むお手伝いができる場になればと思います。
メッセージ2 遺伝カウンセリングでは、遺伝が関連する・・
病気についてさまざまな相談に応じています。臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーが担当しています。私たちは、相談にいらした方が知りたいこと、不安なこと、悩んでいること、家族のことなど、詳しく状況や相談の目的についてお話を聴かせていただきます。
その際、心配や不安、恐れ、悲しみなどの気持ちもお話して大丈夫です。私たちは、その気持ちに寄り添いながら、最新で正しい情報をわかりやすくお伝えします。そして今後のことを一緒に考えていきます。
メッセージ3 みなさん初めまして。「遺伝カウンセリング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
病院は一般的に体調が悪くなった時に行く場所ですが、遺伝カウンセリングは、いつでも誰でも、遺伝について気になることを相談できる場です。例えば、自分や家族がHDなのかなと思った時や、医師からHDの可能性があると言われた時、遺伝学的検査を受けるかどうか迷った時、お子さん・兄弟姉妹・交際相手等にHD(の可能性がある)と伝えるかどうか/どのように伝えるか迷った時、日々のいろんな思いが湧いてくる時、最新の情報を知りたい時など、自分の話したいことを何でも話せる場なのです。話したい内容がまとまっていなくても大丈夫です。ご自身が相談したいタイミングでいつでもお越しください。一人で考え込まずに、まずは認定遺伝カウンセラーにお電話してみてください。
メッセージ4 遺伝カウンセリングは、遺伝に関する・・
問題や心配・不安を抱える患者さんやご家族(クライエント)に対し、その問題についての正しい知識や情報を提供・整理することで、クライエントの生活や今後の健康管理などに役立つ知識・情報にしていくことを支援する場だと考えています。
発症前診断における遺伝カウンセリングでは、混乱や大きな不安を抱えて来談する方が多くいらっしゃいます。遺伝学的検査を受ける/受けない場合に、クライエントやご家族にどのような影響を与えるかは、その人その人で異なります。クライエントやご家族にとってより良い選択がどのようなものであるかを一緒に考え、サポートしていきたいと考えていますので、ぜひ活用していただきたいと思います。
メッセージ5 遺伝カウンセリングでは・・
・あなたが抱えている不安や悩みを分かち合います。
・あなたが必要としている情報、あなたに知っておいてほしい情報をわかりやすくお伝えします。
・対話を大切にしながら、あなたにとって納得のいく生活(人生設計)が選択できるよう支援します。
・そして、あなたとの継続的な関わりを大切にします。数ヶ月後でも数年後でも必要な時には、遺伝カウンセリングにいらしてください。
メッセージ6 遺伝性疾患の場合、患者さんご自身やご家族の方は・・
生涯をかけて病気と付き合っていくことになります。遺伝に対する考えは、日々変化しますが、遺伝カウンセリングは、その時々の思いを整理する場だと感じています。
・子供に遺伝について話すべきか否か
・発症前診断を受けるべきか否か
・結婚を考えているパートナーに伝えるべきか否か
これらの問題には正解はありません。ですので、遺伝カウンセリングでは、皆さんの思いを引き出し整理するお伝いをしますが、「こうした方がよいのではないか」といったアドバイスは行いません。どのような選択を取られたとしても、皆さんがご家族のことを思い、充分に考え抜いてご自身の力で出した結論であることが重要だからです。
また、遺伝カウンセリングに来られた際に相談した内容は、大事に保管しています。ご希望があれば、皆さんが考えていたことを、後になってからご家族の方に共有することもできます。思いを整理し、ご自身やご家族がその時々を振り返る場として遺伝カウンセリングを活用して下さい
メッセージ7 HDと診断された方、あるいは身近にHDと診断された・・
ご家族がいらっしゃる皆さんへ HDという名前は、初めて耳にする方も多いのではと思います。ですから、不安に感じる方も少なくないと思います。実際、日本で診断される患者さんは、欧米の1/10といわれています。遺伝カウンセリングは、患者さんだけではなく、何も症状のない方も受けることが出来ます。HD のこと、これからのこと、遺伝するかもしれないことなど、色々な不安やお困りのことをお話し下さい。
・まず、正しい情報を整理して持っていることが大切です。そのことで、不安が軽くなるかもしれません。
・新しい情報を得られるかもしれません。そのことで、明るい希望を持てるかもしれません。
・あなたの気持ちやお考えをお話しして下さい。それだけで、気持ちが楽になるかもしれません。
・色々な決断をしなければならないこともあります。遺伝カウンセリングは、皆さんが「この決断で良かったのだ」と思えるように、お手伝いするところです。
専門の訓練を受けた認定遺伝カウンセラーが皆さんを応援します。
メッセージ8 当診療部で初めてHDのご相談に来られた方は若い男性でした。
発端者である親は既に亡くなっていましたが、親の発症時期に近づいてきたことを機に、発症前診断を目的に来談されました。職場や保険のことがあり、遺伝カウンセリングは一旦中断しましたが、改めて来院された時には、素人目にも発症していることが分かりました。しかし、本人の意向を尊重してその後も発症前診断として対応し、約1年の歳月をかけて確定診断されました。この間にJHDNの会員との面談もセッティングしました。当日は認定遺伝カウンセラー(以下CGC)として同行する予定でしたが、あいにく予定が合わず一緒に行けませんでした。お会いした患者さんと意気投合したようで、その後、彼は妙にテンションが高くなり、発症前診断にますます積極的になりました。
遺伝カウンセリングは遺伝の専門スタッフが病院の中で行うだけのものでないことを痛切に感じたのがJHDNへの参加でした。前回の反省もあり、以後はCGCとして患者・家族にJHDNを紹介する時には必ず同行しました。紹介だけして「患者・家族会はいかがでした」では、当事者の心配や悩みがどんなプロセスで変化したか、変化しないかが分かりません。実際にいつ、誰と、どこで、どんな話をして、そう感じたのかを共にすることで、当事者の意思決定の拠り所を知ることができます。
このご家族は、その後に同胞が発症しました。既に子どもも居て、同じ兄弟でも置かれた状況が違うため、悩みや心配の内容は違いました。さらに従兄弟が発症前診断を希望し、その親が子どもの診断のために、臨床的には白に近いグレーでしたが、遺伝学的検査で確定診断されました。それぞれの症状や発症時期にかなり幅があり、血縁間でこんなにも違うものかと改めて実感しました。教科書には書かれていない、まさに患者・家族からの学びでした。そして、これこそが病院の中で実施する遺伝カウンセリングには大きな情報にもなりました。
現在も進行形でHDの発症前診断希望の遺伝カウンセリングを担当しています。同じ病気でも発症を知るきっかけが異なります。歯医者でじっとしていられない(不随運動があって)、うつになっている家族が複数いる、借金して自己破産してなどほんとうに多彩です。それゆえに病気に対する家族のイメージも異なります。そしてそれぞれがファーストタッチした医療関係者の対応でその後の患者・家族の受け止め方は変わってくることも感じています。些細なことでも是非ご相談いただければと思います。