HDが話題に、ユニキュアが遺伝子治療レースで頭一つ抜き出たことで

FDAはハンチンチン低下のための遺伝子治療物質AMT-130を治験用新医薬品として認め、HD患者を対象とした治験に道を開きました。
ジェフ・キャロル博士 2019年1月30日  編集:エド・ワイルド博士 (翻訳 JHDN会員

注意:細心の注意を払い翻訳していますが、最適な日本語になっていない可能性があります。著者の意向が正しく反映されていない可能性がありますので、もし疑問に思われる場合は、原本を参照してくださるようにお願いします。

オランダと米国を拠点とする企業ユニキュア(UniQure)は、米国の薬事当局FDAの承認を得て、HDを対象とする世界初の遺伝子治療治験を始めることになりました。ウイルスを使うというのがユニキュアの計画で、これを脳内に注入し、有害ハンチンチンタンパク質を低下させるための武器を作る工場へと細胞を変えるのです。

ハンチンチン低下のおさらい

HDBuzzはハンチンチン低下(HD治療のアプローチ群の一つ)に特別な思い入れがあります。ハンチンチン低下は様々な手法で試みることが可能ですが、達成しようとする目標は一つ、すなわち、細胞内の変異ハンチンチンタンパク質レベルを下げることです。

ニキュアのAMT-130療法ではアデノ随伴ウイルス(AAV)を使ってハンチンチン低下遺伝子治療薬を脳へと送り届けます。

HDは私たちがよくHD遺伝子と呼んでいる遺伝子の変異型が原因です。この遺伝子がHDの根本原因ですが、主病因となっているのはそれに基づいて作られる変異ハンチンチンタンパク質です。

細胞は常に遺伝子を読み取って新しくタンパク質分子を作っています。細胞が健康な状態でその役目を果たすことができるのは、小さいながらもタンパク質の仕組みのおかげです。けれども、細胞では新しいタンパク質を作るのに、その鋳型としてDNAを直接使っているのではありません。細胞ではDNAの指示がメッセンジャーRNAというDNAと密接な関係にある言葉へと入念に書き写され、遺伝子の一時的なコピーが作られます。そしてこのメッセンジャーRNAという形のコピーを使って、タンパク質生成組織にすべきことが伝えられるのです。

ハンチンチン低下は悪者である変異ハンチンチンタンパク質の生成を減らすことを目的としています。一番知られているのは仲介者、すなわちメッセンジャーRNA分子(これがDNAからの遺伝子情報をタンパク質生成組織へとピストン輸送しています)をやっつけるやり方です。

従来のアプローチとユニキュアからのニュース

ここのところの大いなる前進の結果、現在、アイオニス、ロシュ、ウエーブ・ライフサイエンスによってハンチンチン低下薬の治験が行われています。これらはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)によるものです。ASOとは合成DNAの小片で、それぞれに対応するメッセンジャーRNA分子を認識して、破壊するよう目印をつけることができます。

2017年の終わりに、神経系内の変異ハンチンチンがRG6042による処置で低下した[I1] ことが初めて分かり、まさに今週、最初の患者がロシュのピボタル治験GENERATION-HD1に登録されました。この治験は初めて行われる第3相ハンチンチン低下治験で、同社のASO薬RG6042が進行を抑えると証明されれば承認に至る可能性があります。

けれども、ハンチンチン低下には他にも違ったアプローチが複数あって、その一つが先週米国食品医薬品局(FDA)から大きな信任投票を得ました。朗報をもたらしたのはユニキュアという会社で、アムステルダムとマサチューセッツに本拠を置いています。同社のアプローチが他と違うのは、ハンチンチン低下を遺伝子治療で行おうとしているところです。


遺伝子治療の独自性

ロシュのRG6042のようなASO薬はDNAで出来てはいるのですが、処置を受ける患者の細胞にそのDNAが恒久的に組み込まれるのではありません。対照的に、遺伝子治療の処置では、人のDNAを変えたり人の細胞に新たな遺伝子上の指示を埋め込んだりします。

理屈の上では微妙な差ですが、この差は全体としてみると非常に大きな違いになり得ます。たぜなら、遺伝子治療の処置は何年も、あるいは何十年も効き目がもつことになるからです。それよりずっと速く効き目がなくなるため何回も投与しないといけないASOや従来型の薬とは違います。

遺伝子治療で最も分かりやすいアプローチは遺伝子編集をしてHDの原因となる変異を取り除くというものかもしれません。確かにこれには訴えかけるものがありますが、安全に行うのはとても難しいでしょう。それに代えて、ASO薬でなら今や実現可能だと知られていることと同様のことを遺伝子治療で達成するというのが、HDの遺伝子治療に取り組んでいる企業の大半が試みていることです。すなわち、RNAメッセンジャーをやっつけて有害な変異ハンチンチンタンパク質の生成を減らすのです。 問題は、脳内の細胞すべてにHD変異があって、日々変異ハンチンチンタンパク質の生成を行っているということです。現行のHD遺伝子治療アプローチのねらいは、ニューロンを小さな工場に作り変えて、ニューロン自身が抱える問題を解決するための手段を製造させるというものです。このアプローチでは、細胞に遺伝子を付加して、ハンチンチンメッセンジャーRNAを見つけ出して破壊する武器を作るという指示を、その付加した遺伝子に担わせます。その武器というのはマイクロRNAと呼ばれるRNA小片で、ハンチンチンRNAに自らをくっつけるよう、とても精密に設計されています。二つのRNA片がくっついて一緒になっているところを細胞が見つけると、細胞に備わったRNA削除の仕組みが作動して、二つとも破壊します

今のところをもう一度

頭に穴をあけないといけないといった脳外科手術が必要になるかもしれませんが・・・一回限りの神経外科手術によって遺伝子治療薬を脳内へ注入するだけで、生涯にもわたる永続的効果が望めます。

若干ややこしくなってきましたので、まとめておきましょう。

問題は変異HD遺伝子で、これがハンチンチンメッセンジャーRNAを作り、さらにこれが細胞に変異ハンチンチンタンパク質を作らせます。

解決は新たな遺伝子を追加することです。この新たな遺伝子もRNA片を作りますが、これがマイクロRNAという武器です。この武器がハンチンチンメッセンジャーRNAに引っ付いてその削除を引き起こします。ハンチンチンメッセンジャーRNAが少なくなればハンチンチンタンパク質の生成も少なくなります。

話題に

ニューロンは基本的に置き換え不可能です。ですから脳細胞はいったん細胞死すると一般的には蘇りません。

HD治療の観点からすれば、このことはまさに功罪併せ持つ状況です。今までのところ、HD患者の脳内で死んでしまった細胞を置き換える技術は存在しません。けれども、良い面としては、ニューロン自体を薬工場になるよう仕向けることができるなら、その細工は一回限りで済みます。というのもニューロンはその主が持ち歩いている限り死なないはずだからです。

脳疾患のための遺伝子治療でウイルスを使うのはまさにこれを行うためです。研究者たちは何十年もアデノ随伴ウイルス(AAV)というちっぽけで無害なウイルスに取り組んできました。ウイルスには生涯ただ一つの目標があります。細胞に忍び込んでその細胞にDNAを複製させ、このDNAで分身を作り出すことです。

通常、これは非常にまずいことです!けれども、ウイルスのDNAをえぐり取って、その代わりに役に立つ(害を及ぼす、ではなく)指示を埋め込めばどうでしょう?そうすることで、ウイルスの際立った能力(細胞に入り込んで細胞を新たなDNAでプログラムし直す能力)を利用することができます。

単回投与で効果が永続する治療というと素晴らしく聞こえますが、意外にも二つのマイナス面があります。

第一に、ウイルスは直接脳内に注入しなければニューロンに入り込めません。ウイルスが担う積み荷を脳のここという部分に正確に送達するには神経外科手術が必要でしょう。言うまでもなく、脳外科手術は気軽にできるものではありません。

もう一つ難点として考えられるのは、何か副作用があれば、それも治療効果と同様、永続するということです。そして、その副作用のスイッチを切ることは不可能でしょう。

これは極めてハイリスク・ハイリターンなアプローチなのです。

AMT-130とIND承認

遺伝子治療はハイリスク・ハイリターンな手法です。上手くいけばその効果の持続がのぞめますが、何か副作用があればそれも長く続くでしょう。遺伝子治療には入念なデザインと慎重な治験の実施が求められます。

ユニキュアがHD遺伝子治療の開発競争に名乗りを上げる契機になったのはAAVです。ユニキュアが製作したAAVが担う指示にしたがってマイクロRNAという武器が作られ、これがハンチンチンメッセンジャーRNAにくっつくのです。このパッケージ全体(ウイルスとそれが担う指示)が「薬」で、これをAMT-130といいます。

ユニキュアは今週重大な発表をしました。薬品や治験の規制当局である米国食品医薬品局(FDA)によってAMT-130が治験用新医薬品(IND)として扱えるよう公認されたのです。これは薬の開発ではまさに画期的なことで、人を対象とした治験に進む前にクリアしなければならない大きなハードルなのです。ユニキュアの発表によれば、FDAはAMT-130に関するデータと治験計画を検討した結果、ユニキュアがプログラムを進めることを快諾したということです。

IND申請は公開されませんので、同社がどのような内容を提出したか正確には分かりません。しかし、2018年に開催された複数の学会でユニキュアはデータを発表しています。それが明らかにしたところよれば、HDマウスの脳に注入されたAMT-130は、担っている遺伝情報をニューロンにもたらす力に優れており、結果としてニューロンの生成するハンチンチンタンパク質が減少しました。処置されたマウスは未処置のものより運動機能検査で良い結果を出し、長生きしました。マウスの脳より大きい豚の脳を対象にした場合にも、ウイルスの担う情報は期待にこたえて広く拡散され、HDで重要だと考えられている脳領域のいくつかにまで達したことが明らかになっています。 同社が実施した動物実験以外にも、IND申請では安全性に関する豊富なデータ、薬剤製造法の詳細、人を対象とする治験計画に関する膨大な情報が提出されます。その情報には参加する研究者の専門領域や提案した治験の実施方法なども含まれます。

次は?

IND承認を掌中に、ユニキュアはいくつかとても野心的な計画に邁進しています。

IND承認に次ぐ段階として、製薬会社は通常、人を対象とする第一回の治験を実施します。HD治験の場合、これまで第一回の安全性治験(いわゆる第1相)と当該処置が所期の目的を果たしているかどうかに関する諸測定(通常は第2相治験で得られる情報)を同時に実施する会社がありました。

ユニキュアもまた、プレスリリースでこう述べています。「FDAのIND承認によって、ユニキュアは計画していた用量漸増、無作為化比較第1・2相治験を開始できることとなりました。この治験ではHD患者を対象にAMT-130単回処置の安全性、忍容性、および効果を評価します。ユニキュアは米国における複数の施設で治験を開始し、患者への投与が始まるのは今年の下半期になる予定です」

プレスリリースでは往々にして実現できる以上のことを約束するものではありますが、2019年後半に薬のテストを計画しているようで、初回の治験について詳しく計画していることが明らかなのは心強いことです。提案している治験の正確な内容は(治験施設の所在地も)まだ分かりませんが、計画が進むとともに、2019年中には、はっきりしてくると思います。

今回の発表を受けて私たちを取り巻く状況は?

現段階では調査分析すべきことがまだまだたくさんありますが、全体としては正しい方向への大きな一歩ですし、2019年を通じて感謝すべきもののリストに今回の発表を加えてはいかがでしょうか。患者を対象にASO薬をテストする二つの素晴らしいハンチンチン低下プロジェクトで年の初めを迎え、今度はハンチンチン低下の遺伝子治療アプローチがそれらと並行して実施されようとしています。他にもボイジャーやスパーク・セラピューティクスなど、いくつかの企業が遺伝子治療に取り組んでいますが、ユニキュアがその手にしたばかりのIND承認にはいずれもまだ至っていません。

いずれのアプローチにもそれなりのリスクと効果がワンセットになっています。現時点ではハンチンチン低下のアプローチとしてどれが最適かは誰にも分かりません。だからこそ、人を対象としたこれらすべての治験を同時に進めるのが良いのです。

こうした企業すべてが、そして薬事当局も、これらのプロジェクトに可能性を見ているというのは心強い限りです。HDBuzzでも2019年が進むとともにハンチンチン低下についての嬉しいニュースをもっとお知らせできることを楽しみにしています。

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参考:uniQure(AMT-130)の臨床試験は現在進行中です。また、uniQure社の発表によると新たに2名の患者が試験に参加しました(2020年10月13日付)。