HD当事者やその家族およびHD研究にとってCOVID-19の意味するもの
COVID-19最新情報:COVID-19(新型コロナウイルス感染症)でHD当事者やその家族はどうなるのでしょうか?HD研究は?そして科学の手法をどう変えたのでしょうか?
著:サラ・エルナンデス博士、エド・ワイルド博士 編集:レイチェル・ハーディング 日本語訳:JHDN会員有志 原文はこちら
COVID-19(coronavirus disease 2019の略)が、まさに世界を急襲しました。多くの人がSARS-CoV-2ウイルス(新型コロナウイルス)に感染し、買い溜め・買い急ぎの客で店は大混乱、家で隔離状態の人も大勢います。けれども、この狂乱の嵐の背後では、世界中の科学者がたゆまぬ活動を続けています。かつてないスピードで研究を前進させ、このウイルスを理解して治療法やワクチンが開発できるようになることを目指しています。こうした状況はHDコミュニティにどう影響するでしょうか?そして、HD研究はCOVID-19でどうなるのでしょうか?
HD患者や家族にとってCOVID-19の意味するもの
HDコミュニティの大多数にとって今まさに重要な問題、それは「私、あるいは私の大切な人はHDのせいでCOVID-19のハイリスクに晒されているのか?」です。答えは「その人による」です。HDの原因となる遺伝子変異があること自体のせいで、COVID-19への耐性がHDでない人より強くなったり弱くなったりすることはありません。
個々のHD当事者のCOVID-19への耐性が弱くなるとすれば、それはその人をハイリスクにする基礎疾患が何かある場合です。喘息があるとか喫煙者であるといったはっきりしたものの場合もあるでしょうが、HD発症者が含まれる場合もあるでしょう。というのも、周知のように嚥下、肺の清浄化、病識がHDによって損なわれている場合があるからです。
世界の様々なHD団体からのアドバイスを以下で見ることができます。
- https://www.hda.org.uk/getting-help/covid-19-information-advice
- https://hdsa.org/wp-content/uploads/2020/03/COVID-Statement-3-18-20-final.pdf
- https://www.huntingtonsociety.ca/novel-coronavirus-covid-19-and-huntington-disease-what-you-should-know/
“HDの原因となる遺伝子変異があること自体のせいで、COVID-19への耐性がHDでない人より強くなったり弱くなったりすることはありません。個々のHD当事者のCOVID-19への耐性が弱くなるとすれば、それはその人をハイリスクにする基礎疾患が何かある場合です”
安心・安全・健康であるために、みんなでWHOが推奨することを実行し続けなければなりません。すなわち、こまめに20秒間お湯で手を洗い、触れるものを消毒液で清潔にし、社会的距離(ソーシャルディスタンス)を心がけましょう。ソーシャルディスタンスを実践するとは、同居者とだけ接触する、外出は絶対必要なこと(社会に不可欠な仕事、食料品の買い出し、薬局での薬の入手など)に限るということです。誰もがCOVID-19の症状(発熱、空咳、息苦しさ、倦怠感など)に警戒を怠らないようにするべきです。
特別ハイリスクなHD患者のなかには、より厳しく自己隔離する必要がある方もいるかもしれません。心配なら上記のアドレスやご自分の医療提供者にアドバイスを求めてください。
HD研究にとってCOVID-19の意味するもの
普段なら一日中研究室でHDを研究して過ごしている科学者の多くが在宅を求められています。ソーシャルディスタンスを実践し、安心・安全を保つためです。つまり、このパンデミックの間、短期的にHD関連の研究のスピードは遅くなるでしょう。大切だと考えられるのは、貴重な検体の安全な保管が確保されていることです。また、止めることを余儀なくされた実験が、また研究室で安全に過ごせるようになったらすぐに再開できるような休止状態になっていることも大切です。
HD研究者は確かに毎日研究室に行くことはできないかもしれませんが、それでも一生懸命にHDと闘っています。現場で実験をしていないかもしれませんが、論文を読んで新たな発想を展開していたり、HDの理解を深めるためにデータをまとめていたり、論文を書いて世界に向けて明らかになったことを発信していたりします。研究室は以前より静かかもしれませんが、HD研究者は今も仕事に打ち込み、HDと闘っています。
前例のない世界的協働が実現し、COVID-19関連の研究が急ピッチで進んでおり、論文の発表も日々増えています。COVID-19文献の飛躍的な伸びがLitCovidによってグラフ化されていますが、LitCovidでは現在、関係論文が無料で手に入ります。
LitCovidへのアクセスはこちら
治験は?
多くの国で医療システムをあげてCOVID感染者の治療に取り組んでいるなか、研究から医療現場へ医師や看護師の振り向けも大規模に行われ、HD治験への影響も避けられなくなっています。しかしながら、関係者一同できる限りのことをして、影響を最小限にとどめて治験活動で継続できることは何でもしようとしています。
実際のところ、影響は施設によって、あるいは治験によって千差万別です。新たな患者の登録をまだ進めている施設もあるかもしれませんが、一方で多くの施設が被験者の新規募集を一時休止せざるを得なくなって、すでに参加している患者へのケアと投与の継続に集中することになるでしょう。治験に必要な来院に代えて電話を利用する施設や、患者自身の来院は安全にできるようになるまで延期する施設も多くなりそうです。
どのような活動が継続可能かの判断は、医療資源を管理している病院や地方・中央の統括組織によって、現場に即して下されるのが一般的です。治験の主催者(ウエーブ、ロシュ、ユニキュアなどの企業)は治験に資金を提供し、その支援・運営に当たっています。これまでのところ、私たちが確認した治験主催者すべてが、パンデミックで中断されることがあるとしても治験の運営・完遂には全力で取り組み続けると表明しています。
今後なにがしかの変更が、想定外の中断を受けた治験を補うため、必要になるかもしれません。例えば、現有の患者を計画より長く処置する必要が出てくるかもしれませんし、追加の患者を募集して時間のロスを埋め合わせる必要が出てくるかもしれません。今後、FDAなどの薬事当局は、欠測データのレベルが通常より高い治験で得られたデータを考慮するにあたって、より柔軟になる必要が出てくるかもしれません。COVID-19の影響がどのくらい続くのか全く分からないなかで、これ以上明確に言うことは難しいのですが、この世代の素晴らしいHD治療薬を数々開発して治験にまでもっていった聡明な人たちが、今もその治験の運営を継続しようと人知の限り全力で取り組んでいます。
“HD研究者は確かに毎日研究室に行くことはできないかもしれませんが、それでも一生懸命にHDと闘っています”
このような状況での明るい側面は?
科学、研究、そして迷信ではなく科学に裏付けられた公共政策、これらこそ人類が現下の危機を克服する鍵になります。この困難に直面して科学研究は、すでに良い方向に変化しています。これは非常に根本的な変化で、その方向性はCOVID-19が不幸な記憶として心に留められるようになったあともずっと役に立つことでしょう。
非常に短期間で、世界中の科学者が一つになってこのウイルスを研究してその結果を共有しています。あらゆる人たちの役に立つように。COVID-19に関する科学論文の数は毎週劇的に増加しています。 COVID-19の研究を加速させようという取り組みにおいて、ほとんどすべての関連科学文献がオープンアクセス化されています。つまり、今は誰もが無料で入手できるのです。少なくとも今は。COVID-19を理解し、それと闘うためにいかに多くの研究が行われているかをLitCoivdで確かめることができます(そして好きなだけ読むことも!)
このウイルスについては研究を通じてすでに多くのことが分かっています。感染は人から人へと広まります。ウイルスを保持している誰かと直接接触したり、(くしゃみや咳など)保持者の出す飛沫を受けることで広がるのです。インフルエンザが感染する仕方と似ています。けれども、COVID-19はインフルエンザと様々な点で異なります。COVID-19による死亡率ははるかに高く、ワクチンも現時点ではありません。新しいウイルスなのでまだ解明を待つところもたくさんあります。
COVID-19の治療薬をいち早く発見するために、研究者たちは効果がありそうだと思われる薬ですでに安全性の承認を受けているものをテストしています。
SARS-CoV-2曝露の後COVID-19の症状が現れるまでに最長14日かかる場合があり、このため医師の多くが14日の隔離期間を推奨しています。しかしながら、一定割合の人たちは無症状のままの可能性があることが今では分かっています。すなわち、この人たちは症状がないのにウイルスは保持していて、他の人にうつす可能性があります。実のところ、無症状者の割合は20~30%にものぼる可能性があります!ですから、ソーシャルディスタンスを実践して可能な限り自宅にいることが感染を広げないために非常に重要なのです。広範な検査をしない限り、ウイルスの保持・不保持について本当のところは分かりません。そのため、健康であるためには隔離がポイントになるのです。
複数の治験のドラマティックな立ち上げ
HDコミュニティのメンバーの多くはすでに一歩先んじて治験の重要性を理解しています。薬が広く使われるようになる前にその安全性と作用を確かめるのが治験です。HD患者やその家族はこのことを、まさに今ロシュによるTominersen(以前のIonis-HTTRxそしてRG6042)の第3相治験で自らの経験を通じて認識しているところですが、COVID-19との闘いで使用される薬についても同様の作業が早急に必要となります。
COVID-19について、研究者たち[MOU1] は二塁からスタートしようとしています。すでにFDAから他の用途で承認されている薬で、COVID-19患者の症状改善にも使えると思われるものを、その用途を変えて使うのです。そうした薬はすでに承認を経て販売されていますので、安全性治験はもうクリアしており、より早く使用に供されます。
WHO(世界保健機構)は、COVID-19に最も効きそうだと考えられる薬や薬の組み合わせを4つ優先的に取り上げて国際治験を立ち上げ、それらがどれだけ有効かを確かめようとしています。この治験はSOLIDARITY(連帯)と名付けられています。一丸となってこのウイルスと闘おうという地球規模の取り組みにぴったりの名前です。
レムデシビルはウイルスの複製を妨げる薬で、それによってウイルスの増殖を止めるものです。これは本来エボラウイルス用に作られたものですが、COVID-19にも有望です。(少なくとも米国で)最も注目されているのはクロロキンで、その関連薬としてヒドロクロロキンがあります。この薬に熱い期待を抱き続ける人もいますが、いくつか制限があってまだテストが必要です。3番目はリトナビルとロピナビルを組み合わせたもので、HIV感染症治療用に承認されたものです。最後は同じリトナビルとロピナビルの組み合わせにインターフェロンβを追加したものです。インターフェロンβは炎症の調整に有効で、MERS(中東呼吸器症候群)という別のウイルス疾患の治療に有効であったとされています。
こんな状況にも必ず終わりが
このウイルスのせいで全世界がストレスと恐怖の時に見舞われていることは疑いありません。けれども、明るさも垣間見えます。このパンデミックもいつかは収まり、それまでその陰で見えなかった明るい側面が残されるでしょう。多くの人がいままでより長い時間自分の大切な人と家で一緒に過ごすことができるようになりました。たとえ、ラップトップコンピューターを抱えながらであったとしても。全世界の研究に携わる人たちが一つになって同じ目標に向けて闘うことで、科学的な発見が猛スピードでなされています。そして最後に何より、世界中の犬たちが大喜びしています。だって、自分たちの二本足の友人が毎晩家にいるんですから。安心・安全・健康でいましょう、こんな状況にも必ず終わりがあります。
ワイルド博士は、ロシュ、武田、トリプレット・セラピューティクスなどHD治験を実施している幾つかの企業の治験研究員であり、かつ/または、有給の顧問です。その他の執筆者や編集者は明らかにすべき利益相反はありません。当サイトのディスクロージャーポリシーについて詳しくはFAQをご覧ください。