RG6042(ロッシュ社)

核酸医薬を使ったHD治療戦略はハンチンチンタンパク質の低下を目標とし、HTT遺伝子によるタンパク質の合成を抑制することです。現在、何社かの企業がハンチンチンタンパク質を低下させるため、革新的なアプローチを検討しています。中でもアンチセンスヌクレオチド(ASO)をHD治療に使用することを進めている企業が、RocheとIonisです。RocheはIonisと提携し、ハンチンチンタンパク質低下ASOを重要な研究として発表し、“GENERATION HD1”と呼称するASOによる臨床試験をデザインしました。これは非常に大規模な治験であり、世界150カ国から80~90の医療機関で660名のHD患者を登録するという内容です。
 当試験は第三相であり、より多くの患者を対象に、長期間投与をすることで、副作用や有害事象の発生(安全性)とハンチンチンタンパク質濃度の低下の程度、症状の改善など(有効性)を評価します。なお、第一/二相についてはすでにNEJMに中間結果と課題が発表(2019年6月13日)されています。

臨床試験(第三相)計画

治験の目的は長期間投与の安全性と忍容性であり、機能評価(運動、認知、神経関連)を行うことです。ここで忍容性とは薬剤の副作用が投与された人にとってどの程度耐えることができるかを評価することです。第三相はより多くの患者を対象に病院や国の枠を超えて多施設共同で実施されます

臨床試験の概要

RG6042 第三相臨床試験
【治験タイトル】
・無作為化、多施設、二重盲検、プラセボ対照試験(第3相)RG6042の有効性と安全性を評価
【目的】
・治療
【参加患者数】
・909名
【期間と施設】
・開始日  2019年1月23日、終了日 2022年3月1日
・治験完了日 2022年8月1日
【試験方法】
・無作為抽出、並列割当(4項目マスキング(患者、医師、治験研究者、評価者))
【試験群と介入内容】
・Q8W(8週間ごとに薬剤の投与を受ける)群 RG6042の髄腔内投与 
・Q16W(16週間ごとに薬剤の投与を受ける)群 RG6042の髄腔内投与
・偽薬(8週間ごとに髄腔内プラセボ投与される)群 偽薬の投与
【主要目標】
・複合統一ハンチントン病評価尺度(cUHDRS) ベースライン(開始日)と101週目
【二次目標】
・TMSスコア(総合運動量尺度) ベースラインと101週目
・SDMT(注意、認知・知覚速度、モーター速度、視覚的走査などの機能が反映されるテスト) 同上
・SWRテスト(stroopワードテスト、色名呼称における色と語の干渉効果課題を中心とした神経心理学的検査)
・CGI-S(臨床全般印象-疾病重症度尺度)

HD患者のハンチンチンタンパク質をターゲットにした臨床試験第一/二相の結果と課題について

  • 治験薬(HTTRx)の毎月髄腔内投与4回行う投薬計画においては重篤な有害事象は見られなかった
  • 治験薬による介入(治療)はHD発症の原因と推察される変異HTT濃度を薬剤量に依存して低下させた
  • ただし、今回の試験ではこの低下が中枢神経系の変異HTT濃度を下げることにつながるかは不明であった。
  • 前臨床試験の結果として、CSF(Central Spine Fluid:脳脊髄液)内の変異HTTの濃度は中枢神経細胞内の変異HTT濃度を反映していることの確認はできていた
  • HDのマウスモデルでは運動機能や生存率に関係する変異HTTの濃度を持続的に低下させるに有効であり、HTTをターゲットにしたASO(アンチセンスヌクレオチド)開発の根拠になっている。しかしCSF内の変異HTTの濃度を減少させる作用をもっているHTTRxが、何年にもわたり症状が進行するHDの治療に有効であるかを確認するには大規模試験が必要である

臨床試験の概要と結果

HD患者のハンチンチンたんぱくをターゲットにした臨床試験第一/二相の結果と課題について
【目的】
安全性(副作用、有害事象の重篤度)、薬剤投与量と有効性の評価
【参加患者数】
・HD発症初期の患者46名
【期間と施設】
・2015年8月から2017年11月、英国・ドイツ・カナダの9施設
【試験方法】
・無作為抽出二重冒険
【薬剤投与】
・治験薬(HTTRx)と偽薬を参加患者に対して3:1の割合で、4週間ごとに4回髄腔内投与
【主要目標】
・薬剤の安全性
評価手法は、身体的・神経学的検査、コロンビア自殺重症度評価尺度、バイタルサイン、心電図など)
【二次目標】
・治験薬(HTTRx)の薬物動態、ハンチンチンたんぱく濃度測定を含む
【結 果】
安全性:治験薬の髄腔内投与では重篤な有害事象はなかった
1)有害事象として報告されたものは、処置痛と硬膜穿刺後の頭痛であったが、試験期間や薬剤用量との関連はなかった
2)試験中に有害事象を原因とする死亡例、中断あるいは試験の遅滞はなかった
3)試験期間は自殺行動や企図はなかった
4)MRIや脳波は通常であった
・薬物動態-変異ハンチンチンたんぱくは薬剤用量に依存して低下が認められた
1) 薬物動態では用量30mg以上の群において、ほとんどの患者ではCSF(脳脊髄液)に治験薬が認められる
2) 薬剤投与の増量について、10mgから60mgまではトラフ(最小)濃度は増加するが、60mg以上で増えない
・治験薬との関連性がある項目:治験薬の血漿中濃度
1)髄腔内投与後4時間以内にピークに達し、24時間後には30%以下に低下する。なお、増量については概して比例関係でHTTRx濃度の変化がみられる
2)CSF(脳脊髄液)中の変異HTT(タンパク)の濃度-治験薬を投与されてから28日後の薬剤用量と濃度変化
用量     濃度変化
10mg  -20%
30mg  -25%
60mg  -28%
90mg  -42%
120mg -38%”
・機能的、認知的、精神医学的および神経学的な臨床結果:当臨床試験期間内では、用量レベルにかかわらず概して変化はなく、治験薬を受けた群と偽薬群で有意な違いはない