東京大学大学院学際情報学府 河合香織
東京大学武藤香織先生の研究室の修士課程の学生の河合と申します。
この度はJHDN様の多大なお力をお借りしまして、「遺伝的リスク告知と結婚出産の意思決定―ハンチントン病を手がかりに」という修士論文を2022年1月に提出することができました。調査にご協力いただいた方々のお力の賜物です。心より御礼申し上げます。
プチニューズレター第45号でインタビュー調査の協力者を募集いたしましたところ、インタビュー調査はHDの患者、アットリスク者、配偶者の方8名の方にご参加くださいました。また、別途、遺伝医学に詳しい医療従事者にもお願いし、5名の方がご参加くださいました。1回につき、1時間から3時間のインタビューをお願いし、データを匿名化して分析を行いました。
そこから得られたデータを修正版グラウンデッドセオリーで分析した結果、「親子間の遺伝的リスクの告知」「結婚のロールモデルとしての家族」「結婚・出産の意思決定のプロセス」「結婚・出産の意思決定における医療者との関係」というカテゴリーに分類されました。
そこから見いだされたのは、親子間に受け継がれうるものは遺伝子だけではなく、リスク告知の方法や遺伝の受け止め、親の結婚生活をもとにした結婚観も存在するということです。また、自身の告知の経験を問わず、次世代に遺伝について伝えることに肯定的であったことも明らかになりました。
一方で、結婚相手の見定めとリスクの告知については、結婚しようと思う相手の受容に応じて、その方法を変えていることが分析されました。結婚前のパートナーに対するリスク告知についてはJHDN様でも推奨されていましたが、本調査では当事者の方のなかには必ずしも伝えるべきだと考えていない人もいることもわかりました。
また、リスク告知を含む結婚・出産の助言に関しては、専門知よりも経験知を重視しており、支援をしたいと考える医療者との間に意識の差があるうえ、医療の枠組みでの相談のしにくさも明らかになりました。当事者が医療者に期待しない根底には、自分たちの意思決定をとがめられるのではないかという懸念も見受けられました。
詳しくは、今後の総会などで発表させていただき、また論文として投稿させていただき、皆さまにお知らせしたいと願っています。この度は本当にありがとうございました。4月からは博士課程に進学し、遺伝的な差別のない社会の実現するために少しでも知見を積み重ねられるような研究を行いたいと思っています。今後とも引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。