やっぱりなんか変だ・・
その後すぐに近くの大学病院で診て貰い、Drに「別に障害は持っていないよ。この年頃は元気があるからそう思うだけ。」と言われ、(ほぉら見ろ!何でもないんだ。)と安心したのだが、何故か心の中のモヤモヤが消えない。何でもないと言われれば、逆に新たな不安に支配されてしまうのだ。じゃあ、どうして転ぶとき手をつけないんだろう?どーしてもその疑問が頭から離れず、「Kちゃんは何か持っているのでは?」と疑わざる負えなくなってきた。これは納得するまで調べなければならない・・と即決した私は、Drになんとか紹介状を書いて貰い、こども専門の病院へ行くことにしたのだった。
これが大恩人の小児神経科T先生との初めての出会いだった。こども病院で、軽い知的障害があるという診断を受けたあと、疑問をぶつけてみた。すると隣のリハビリセンターで、こどもたちが遊びながら運動機能を養う、というグループがあるから、参加してみたらどうか?と勧められ通うことになったのである。
さっそくリハビリセンターで診察を受けた後、心理発達科に向かった。そこで出会ったこれまた大恩人のA先生が、滑り台で楽しそうに遊ぶKちゃんを見て、「この子はバランス障害を持っているよ。おそらく脳からくるものだね。」と言われ、障害の形がやっと見えてきた私はホッとした。そこで転倒の事など、今まで悩んできたことを話してみたら、先生が目を覚ます言葉を言ってくれたのだ。「この子は これだけの障害を持っていながら 他の子と同じことが出来ている。それは それだけこの子が頑張っているということなんだよ。他の子に視点を置くのではなく、この子に視点を置いて物を見てごらん。どれだけ頑張っているのか解るし、褒めてあげなきゃならないことなんだよ。」
この言葉は私に強烈な電撃ショックを与えてくれた。今まで私は、Kちゃんが普通の子と同じように何でも出来るのに、どうしてこれが出来てあれが出来ないんだろう?と他の子供たちと比べてばかりいたのだ。大反省した私は、それからやっとKちゃんの母としての第一歩を、踏み出せたのかもしれない。
学校選びは大変!
心理発達科で半年間お世話になったおかげで、平均台を端から端まで渡れるようになったKちゃんだったが、保育園ではかなりの問題児だった。協調性に乏しく、すぐパニックを起こしては泣き叫ぶ、噛み付く、脱走するなどは日常茶飯事。パニックにはホントに泣かされ、走っているダンプに飛び込もうとして必死の思いで救出したこともあった。(マジ、親子で死ぬかと思った。。)そしてもっとも先生方を困らせたのが自慰行為である。教室、階段とあらゆるところで、誰が見ていようとお構いなしに、チンチンをこすり付けるのだ。大汗かいてまでしている姿に、誰もが気味悪がるしまつ・・。愛情が足りない、叩いてしつけるべきと、毎日お迎えに行くたびに言われていた。
そんなKちゃんがいよいよ小学校入学を迎えることになった。頻繁に転ぶKちゃんの安全確保を第一優先したいと考えるようになった私は、Kちゃんを連れて養護学校を見学。そこで少人数制のクラスや廊下の広さなど、何から何まで満足し、「ここなら安心してKちゃんを任せられる」と感動してしまった。
既に就学前検診も普通小学校で受けていたのだが、養護へ通わせたいと急遽変更したもんだから、教育委員会が慌てて我家へすっとんできた。でも転倒の問題、保育園での様々な問題(卒園式では緊張に耐え切れずパニックを起こして椅子を投げてしまったりした)ことを考えると、普通小学校ではKちゃんを守る事は無理だろう?と、とても不安であると心境を告白。すると教育委員会の先生に、「お母さん、安心して下さい。Kちゃんの為に教師を4人付けます。特学の教師二人に担任、言葉の学級の教師。この4人でKちゃんを万全の体制で見ていくと言っています。小学校でKちゃんの力を伸ばしていきましょう!」と説得され、その言葉を信じてみようか・・という気持ちに変わってきたのだった。「お母しゃん。ボク お姉ちゃんといっしょに行く♪」そう言ってニコニコしながら私を見上げるKちゃんが、たまらなく愛しおしく、Kちゃんの気持ちを一番に考えてあげなければいけなかった・・、と反省したのである。
「わかりました。ヨロシクお願いします。Kちゃん、明日からお姉ちゃんといっしょに行こう♪」と言った私の周りを、真新しいランドセルを背負ったKちゃんが「ワ〜イ♪ ワ〜イ♪」と駆け回っていた。
いよいよ入学式
しかし、決めたと言っても、やはりどーしても不安でたまらないのだ。まるで私の心を映しているかのように、入学式の日は大雨だった。ランドセルを背負ってスーツでビシッときめた準備万端のKちゃんに、「お母しゃん、早く行こ♪」と促され、雨の中Kちゃんの小さな手を握りながら学校へ向かったのだが、どうしても足どりが重くなる。入学式もパニックを起こして台無しにしてしまったらどうしよう・・、と考えると、ものすごく憂鬱になるのだ。入学式の時間が迫っているせいか、歩いているのは私たちだけだった。
ところが校門へ着いた時、私は自己嫌悪に陥ってしまった。なんと校長先生、担任の先生、特学の先生、言葉の教室の先生の4人が大雨の中、傘をさして我々を待っていてくれたのだ!情けないやら申し訳ないやらで胸が痛くなり、言葉に詰まってしまって「遅くなって申し訳ありません・・」と言うのが精一杯。それなのに先生方は明るい笑顔で迎えてくれたのである。
「Kちゃん 待ってたよ〜。入学おめでとう!さあ 行こう!」と元気よく声をかけて貰ったKちゃんは、先生に手を引かれニコニコしながら校舎へ向かった。心配していたパニックも、入学式の間、特学の先生がず〜っとKちゃんの後ろで話しかけてくれたおかげで、全く起きなかった。これなら だいじょうぶかもしれない。式を終えた後、雨は止んでいた。雨雲は空と私の心から少しずつ消え去っていた。
次の日から「行ってきま〜す♪」と元気よく学校へ通うKちゃん♪お姉ちゃんと手を繋いで学校へ行くことが嬉しくてたまらないようだった。いつもニコニコしているKちゃんは、六年生からとっても可愛がられて世話を焼いて貰い、同じクラスの子供たちからは、弟のように可愛がられていた。学校へ着けば、六年生のお兄ちゃんが必ず迎えに来てくれて教室まで連れて行ってくれる。週末は忘れ物が無いようにと、体操服や上履きのチェックをしてくれ、帰宅の時は同じクラスのお友達が付き添ってくれた。どの子もお願いしたわけでなく、自主的にKちゃんの面倒をみてくれていたのだ。「ほおっておけないからさ〜」と言うこどもたちに心から感謝していた。Kちゃんは、何故か世話を焼いてしまいたくなる、そんな可愛い子なのだ♪小学校でいじめられたらどうしよう・・と思っていたことが嘘のようだった。
心配していたパニックは、何度も起こしていたが、その度先生方が根気強く付き合い、そのままのKちゃんを受け止めてくれていた。授業中、突然校庭の水溜りに裸になって入ってしまったり、集会でパニックを起こして噛み付いてしまったりなど、数多くの問題を起こしていたのだが、収まれば必ず「ごめんなしゃい!」と謝る素直な性格で、周りのお友達の心を掴んでいたのかもしれない。こうして一学期が終わる頃、Kちゃんは小学校ですっかり有名になっていた♪