気管切開の手術

発作はますます勢いを増していった。身体に触れたり、声をかけるだけで酷くなり、抜管に向けて呼吸回数を減らそうとすれば、更に酷くなってしまう。それでも、二度の抜管にトライした。しかし、連続発作で無気肺が大量に増え、サチュレーションが50台に落ちてしまい、慌てて再挿管となってしまった。抜管に失敗すれば、気管切開しか道がない。そこまでして延命は望んでいないという思いと、胃ろうに続き、身体にポコポコ穴を開けるのは、本人の許可ナシで、どーして私が勝手に決められるのか?というふたつの思いで、気切は絶対嫌だと言い続けてきた。しかし、太く長い管を入れ、苦しそうにしているKちゃんを見ているのは、たまらない・・・。挿管し続けるのは、3ヶ月が限界と聞かされ、気切は嫌だなんて言ってる場合じゃないだろう??と思い直した。最終的に気切にするのは止むを得ない・・という気持ちを先生に話すと、耳鼻科のDrと話をすることを勧められた。

耳鼻科のDrは、既に何度も気切のオペをしてきたベテラン。気切をすれば、患者はこんなに呼吸が楽になる、という話を、まるでパラダイス♪という感じで聞かされ、気切に対する偏見がかなり無くなってきた。私も先生方も、Kちゃんから苦しみを取り除いてあげることが一番の望み。挿管し続けることの辛さを知り、少しでも早く楽にしてあげたいという思いでいっぱいになった。気切して人工呼吸器をつけた状態で、リハが看てくれるのだろうか?という疑問も湧いてきたが、まずは楽にしてあげることが先決!との思いで、気切のオペに向けて準備を進めていった。

平成16年1月15日、Kちゃんのオペは 大成功♪Kちゃんは熱も出さず、風邪もひかず、万全の体調で臨めて、耳鼻科のDrも満足行くオペが出来たと言ってくれた。喉頭全摘術をして貰ったのだが、このオペは大人が主に受けるもので、こどもでの例はあまりないらしい。傷口を小さくキレイに出来るメリットがあり、出血も少しで済んだようだ。 麻酔科のDrにも、血圧が大きく変化する事が無かったので、必要以上の薬を使うこともなかったよ♪と言われ、何から何まで順調に進んで、嬉しい悲鳴をあげていた~。

およそ3時間のオペを終えて面会が許されると、Kちゃんは抜管したスッキリお顔で、クークー眠っていた。とっても楽そうなKちゃんに会えて、「あ~こんな楽になれるなら、もっと早く気切してあげればよかった!」と後悔と嬉しさが混ざった涙が出てくる。まさに ”百聞は一見にしかず”。気切したカニューレからつながれた呼吸器に助けて貰いながら、スヤスヤ眠るKちゃんを見て ほんとにオペしてよかった、と心から思えた瞬間だった。

気切オペ後★一般病棟へ

ぶじ気切のオペを終えたあと、3ヶ月ちょっとお世話になったICUを脱出し、一般病棟へ移る事になった。ICUでもそうだったが、Kちゃんのことを全く知らないスタッフに、カワイイ我が子を可愛がって貰うためには親バカをうつす努力をしなければいけない。てなわけで、Kちゃんの事を少しでも理解して貰おうと、ベッドに写真を日替わりで飾り、Kちゃん新聞も見て貰うことにした。これが結構好評~。皆さん熱心に見てくれて本当にありがたい。一般病棟へ移って10日も経つ頃には、看護師さんたちにメチャメチャ可愛がって貰えるようになっていた。勤務交代で帰る看護師さんには、「Kちゃんをイーコイーコしてから帰ろ♪」と撫でられ、部屋持ち以外の看護師さんにも、「Kちゃん可愛い~♪」と頭や顔を捏ね繰り回される状態♪どうしてKちゃんはこんなに可愛がられるんだろう?と、ありがたい不思議な気持ちになる。「やっぱりオーラが出てるのかな・・?」と独り言を言うと、「そうです。絶対それありますよ♪」と看護師さんに言われ感激した。「お母さんが日替わりで飾ってくれる写真を、みんなとっても楽しみにしてるんですよ~。」とも言われて、益々親バカ全開で張り切って飾りまくっていた。

そんなスタッフたちと和気藹々に、「Kちゃんの呼吸器を頑張って外すぞキャンペーン」を地道に進める。一分間に14回押していたところ、8回、3回と徐々に減らせば、なんとその間に自力呼吸が出てきて、力強い呼吸になってきた。そしてついにゼロ!だいじょうぶなのおおお?と目ん玉飛び出そうになったが、Kちゃんはしっかり自分で呼吸している!

呼吸を助けるための圧力だけかけている状態で、「自分の力だけで呼吸してる!なんて偉いのお~~」と頭をイーコイーコしていたら、Kちゃんがお目目を開けたのだ。あ~また発作だな・・と思い、じ~っと見ていたら、Kちゃんもじ~~っと見つめ返している。「あれ・・?Kちゃんお母しゃんが見える?見えてるんだね?!」と言うと、目を開けたままニコ~~~ッ♪と笑ってくれた。もう発作に邪魔されて、覚醒したKちゃんには会えないだろう、と思っていたので、夢を見ているようだった。体重も15.4kgから18.8kgに増え、驚きの連続だ。

そんなある日、病棟の扉を開けるや否や、看護師さんが、「お母さん!早く!Kちゃんがチョー可愛いですよ♪」と急がせるので、「いつも可愛いですが、今日は更に可愛いんですか?」と親バカ丸出しで病室へ駆け込んで行ったら、Kちゃんの呼吸器が外れてる~~~~!目の前の光景が現実とは思えなくて、しばし呆然としてしまった。「よかったですね・・お母さん・・。」と涙ぐむ看護師さんの言葉でハッと近寄り、慌ててKちゃんを褒めまくった。奇跡だ。あの山のように襲ってきた発作は何だったんだろう

ばあちゃんにお願いする為に墓参りに行った事が、逆に守って貰ったような気がしてきた。M子ちゃんに 「おばあちゃんのお墓参りに行って御礼を言って来ないとネ♪」と言われてハッとした。そうM子ちゃんだ・・困った時だけ頼んどいて御礼を忘れてた。墓参りの時、私は(Kちゃんをヨロシクね。)とお願いしていたのだが、は(Kちゃんを守ってあげて・・)とお願いしていたのだ。ばあちゃんは、M子ちゃんの願いをきいてくれたんだなあ・・と思うと、改めてお礼を言いに行かなければと思う。本当に、神経科病棟の看護師さんたちのおかげである。こんなに可愛がられて、声かけをたくさんして貰っていれば、嬉しくって笑顔を作らずにはいられない。看護師さんたちの愛情が発作を打ち崩し、Kちゃんの素直な気持ちを引き出してくれたのだ。その日、勤務を終えた看護師さんが、

「あ~今日は Kちゃんに全然触れてない!」と言いながら頭を撫でた後、「可愛すぎて涙が出てきた・・」と言って目をウルウルさせてくれた。あ~~親冥利に尽きる!とはこのことだ。みんなとお別れするのは辛いけど、症状が落ち着いてきたKちゃんは、大量の定期薬と共に、予定よりも早く、こども病院を脱出する日が近づいてきた・・・

リハへ帰る!

平成16年3月2日、10時に退院が決まった。リハに帰れるなんて「奇跡が起こらなければ無理!」と思っていただけに、本当に夢のようだ!呼吸器もとれたし、何の問題もない。退院の前日、リハの主治医と連絡をとり、プライマリの所へも飛んで行き、いろいろ話を煮詰めてきた。本来、約5ヶ月間のブランクを埋めるのは大変な事なのだが、リハのSTの先生のおかげで、大変スムースにいった。というのも、こども病院に入院している間、私がメールで送ったKちゃんの症状と画像を、先生がリハのスタッフにリアルタイムで、毎日伝えてくれていたのだ。Kちゃんを我が子の様に可愛がって下さって、リハとの架け橋になって頂き、もう先生は同志の様な存在であ~る。

退院の日、と~~っても可愛がって頂いた神経科の看護師さんたちとお別れするのは、とても寂しかったのだが、たくさんお礼を言ってリハへ向かった。 あれほど待ち望んでいたリハへ向かう足は少し震えていた・・。

リハに着くと、Kちゃんのベッドの周りは写真で飾られていて、「Kちゃん、おかえり~!!」と大歓迎で迎えて貰った。たくさんの人たちが、入れ替わり立ち代り会いに来てくれて、「よく頑張ったねー!偉かったねえ!」と涙ぐむ方もいて、いつの間にかベッドの周りは、看護師さん、Dr、訓練の先生方で囲まれて、たくさんの暖かい目で見つめられ、ほんとに嬉しかった~。こうなると、誰が母だか解らん状態・・。泣かずに笑って帰ろう♪と心に決めていたのに、STの先生に会ったとたん、ふたりぐんでしまった。その日先生は時間の許す限り、ずっとそばに居てくれた。

Kちゃんも、とっても嬉しかった様で、時々笑顔も出て、賑やかな声に包まれて興奮したせいか、緊張が少し続いていた。子供達の笑い声が聞こえる。そんな暖かい空間の6人部屋に再び戻れて、Kちゃんはベッドでスヤスヤ眠っていた。とってもとっても幸せな一日を終えて、リハのスタッフは、再びKちゃんのエキスパートになろうと頑張ってくれている。リハに戻ってきてから、以前よりも更にスタッフと私の気持ちが、ツーカーになってきたことが、ほんとに嬉しい♪